真言宗の教え・葬儀・焼香のマナー・仏壇の選び方
真言宗とは
真言宗といえば、真言密教をはじめとした密教を思い浮かべる人も多いかと思います。確かに、真言宗は加持祈祷や護摩供養などの神秘的な儀礼があるせいか、知らない人にとっては、謎の多い宗派に見えるかもしれません。 真言宗は、平安時代初期に空海(くうかい)が開いた日本仏教の一つで、空海および真言密教は、のちの日本仏教界に大きな影響を与えており、また、空海が開いた真言宗の総本山である高野山には100を超える寺院があり、現在は世界遺産にも登録されています。 ここでは、この真言宗を開いた空海やその教えを紹介し、真言宗の葬儀におけるマナーや仏壇についても触れていきます。
空海の生い立ち
開祖である空海は、出家するまでは、俗名「佐伯眞魚(さえきのまお)」として過ごしました。眞魚は、奈良時代後期にあたる774年に地方豪族の子として生まれ、出家して空海と名乗り、のちに弘法大師と呼ばれるようになりますが、その生い立ちは決して恵まれたものではありませんでした。 中央貴族で占められた官僚が世の中を支配する中、地方豪族出身の眞魚は、幼少期から学問において天才的な才能を発揮し、一族からの大きな期待を背負い、当時では狭き門とされていた、地方豪族出身者としての大学進学を果たしました。 とにかく勉強ができた眞魚は、大学で官僚を目指し儒教を勉強していましたが、中央貴族が民衆に圧政を敷き支配する世の中に疑問を抱き、周囲からの期待を尻目に、大学を中退して仏門に入り修行の旅へと出ます。眞魚は、行く先々で険しい山々を登りながら、100万回の真言を唱えた後、「宇宙の心理を必ずひも解いてやる」という決心をします。その時に空海と名乗り始めました。 この世の真理を解き明かす決意をした空海は、31歳となる804年、当時、最先端の科学や文化を発信する国際都市である、唐の「長安」へ向かう遣唐使船に長期留学生として乗り込みました。これこそが、その後の日本仏教を変える大きな出来事でもあったのです。
唐の長安へ渡り、密教を本格的に学ぶ
中国語が堪能だった空海は、慣れない土地で戸惑う他の遣唐使をよそに、長安の町を自由に歩き回ったり、インドから来ていた修行僧からサンスクリット語を教わり、わずか3か月で習得するなど、ここでも天才的な語学の才能を発揮しました。 空海が長安に滞在したのは結果的に2年でしたが、最後の3か月間、密教のただ一人の継承者である恵果(けいか)和尚に弟子入りし、密教の全てを伝授されます。 恵果和尚は、代宗・徳宗・順宗という3代の皇帝を弟子にしたことから、三朝国師(さんちょうのこくし)と呼ばれるほど、当時の唐では一目置かれた存在でしたが、1,000人を超える弟子を抱えていながら継承者を決められずにいました。そこで、日本からやってきた空海を継承者としたのです。恵果和尚にとって空海は、出会うべくして出会った存在と言えるでしょう。 恵果和尚から密教を口伝で教わり、目的を果たした空海は、留学費用の残りを全て投じて密教の経典や法具、曼荼羅などを買い集め、長安に着いてわずか2年で日本へ帰国しようとしたものの、当然ながら元々20年の留学期間であったため、20年経過しないと日本への船もなく、帰国する方法がありませんでした。 そこで、奇跡的にも、唐の新しい皇帝の即位を祝う日本からの遣唐使船が到着し、それに乗って帰国を果たしますが、帰国後、空海は「留学期間を全うしなかった罰」として、九州の太宰府に留め置かれていました。 その一方、既に日本で天台宗の開祖として日本仏教のトップとして君臨していた最澄(さいちょう)もまた、空海と同じ遣唐使船団に乗り長安に渡り、しかも空海よりも早く帰国していました。実はこの頃、最澄は既に比叡山延暦寺を創建し、桓武天皇からの信頼も厚く、大学教授の海外視察の様な立場で1か月だけの短期留学で密教を勉強して日本に持ち帰り、これに桓武天皇から高い評価を得たと言われています。 しかし、後に帰国した空海が持ち帰った「請来目録」を見た最澄は「今まで自分が学んできた密教は欠陥だらけではないか」と落胆し、年齢も立場も下であった空海に弟子入りする事になります。こうして空海は、日本仏教の頂点に立っていた最澄を弟子にすることで、一躍有名になったのでした。
真言宗の教え
真言宗の教えとして、その中心となるのが「即身成仏」の考えです。人間は「生きたまま仏になれる」つまり「死後ではなく生きているうちに仏となることが出来る」というもので、浄土宗などで教える「死んでから仏になる」という考え方とは対極にあります。これは、真言宗が現世利益(人間が生きているうちにご利益があること)を重視する事からも来ています。 真言密教は、本尊である大日如来(だいにちにょらい)の教えとされています。大日如来とは、創造主やバラモン教でいうところのブラーマンがこれにあたりますが、釈迦などの具体的な対象というより「宇宙の真理」といった概念を指します。 また、真言宗は真言密教とも呼ばれるだけあり、基本的には密教の教えとなります。筋道立てて学問的に理解できるような代物ではなく、体感を通じてしか理解し得ないものが密教とされています。 密教の反対は「顕教(けんきょう)」ですが、例えば釈迦の説く「縁起の思想」など一般的な仏教理論は顕教で、分かりやすく例えを用いたりして誰にでも理解できるのが特徴です。 言葉で説明できるのが顕教、説明できないものが密教とも言えます。言葉で説明できないものが世の中には沢山あります。例えば「愛」などはその典型でしょう。愛とは何かをいくら言葉で説明されても、体験したことがない人間にとっては全く理解できない様に、密教をひたすら学問的に勉強しても理解できないのです。
葬儀で読まれるお経の特徴
真言宗の葬儀で読まれるお経で、最も代表的なお経は理趣経(りしゅきょう)です。他にも般若心経や妙法蓮華経なども読まれたりしますが、真言宗ならではのお経といえば、理趣経を指すことが多いようです。この理趣経には「十七の清浄句」として、男女の性行為について17項目にわたって大胆に肯定する意味の内容が書かれています。 そのため理趣経は、仏教においては不浄とされがちな「男女の営み」を肯定する変わった経典といった誤解をされることもありますが、そうではなく、人間の営みは決して不浄なものではないと説かれていることが重要だとされています。 真言宗の教えには、根本思想として「自性清浄(じしょうしょうじょう)」の概念がありますが、簡単にいうと「生まれながらにして穢れた人間など存在しない」という内容で、理趣経をよく表しています。 また、理趣経は、読経するにあたり「漢音」で読むのが最大の特徴です。例えば一切を「いっさい」ではなく「いっせい」如来を「にょらい」ではなく、「じょらい」と読むなど、一般的なお経と違い、ただ聞いただけでは瞬時に内容を思い浮かべにくい点が、真言宗らしいお経と言えます。 ちなみに、真言=マントラは、真言宗だけのものではなく、マントラや祈祷の際に用いられる呪文の言葉の総称でもあります。例えば、般若心経の後半に登場する「羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶(ギャテイ・ギャテイ・ハラギャテイ・ハラソウギャテイ・ボヂ・ソワカ)」もまた真言の一つです。
真言宗葬儀の焼香マナー
真言宗の葬儀では、焼香は3回行います。ここでも真言宗の特徴である「3」という数がキーワードとなるのが特徴的です。まず、順番が来たら焼香台へと進み、おでこの高さまで香を上げ(押し頂き)ます。1回目のみ押し頂き、2回目、3回目は普通に摘み、ただ香炉へ移すだけです。 また、焼香を3回行う意味としては、空海の説く「身密、口密、心密」の3つから成る「三密修行(さんみつしゅぎょう)」という教えから来ているとも言われています。 ただし、真言宗の焼香は絶対に3回でなければならないかというと、そうではなく、参列者が多い場合など、状況に応じて僧侶の指示により1回で済ませるケースもあります。
仏壇のお供え物、選び方や方角について
仏壇の置き方においても、真言宗には、本山中心という考え方が重要視されます。そのため、仏壇を拝んだその先の方角に総本山が位置するように仏壇を配置するのが特徴で、他の宗派と違い、特に方角は決まっていません。重要なのは、あくまで総本山がある方角ということです。 また、宗派ごとにそれぞれの総本山があるため、例えば「真言宗豊山派」であれば、奈良県桜井市にある長谷寺を指し、「高野山真言宗」であれば、和歌山県伊都郡高野町の高野山を指します。 仏壇には、本尊(ほんぞん)として中央に大日如来を置き、脇侍(きょうじ)弘法大師空海・不動明王を置きます。霊供膳については、仏様から見て、飯椀を手前左側、汁椀を手前右側に置くという点は、他の宗派と変わりませんが、平椀を左上に、壺椀が右上、高坏を膳の中心に置くのが真言宗の特徴です。
まとめ
真言宗について紹介しましたが、神秘主義的だと思われていた真言宗の教えや、空海とい う人物について何となくイメージできる様になったのではないでしょうか。空海や真言密 教の教えに触れたことで、真言宗の葬儀に参列する際には、その度に興味深い発見がある かもしれません。
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